+ + + ソレント誕 + + +


+ + 潮騒 + +

             セイレーン。甘い歌声の、美しき誘惑者。
             大地に起こる全てのことを、知っている者。

強い風が幾日も続き、荒れる波は音高く。
断崖の上に建つソロ家の邸宅からも、打寄せる白い波頭が光って見える。
青白い光源の正体は、煌々とした望月だ。
だが、せっかくの月を隠すように、風に煽られた雲が、時折横切ってゆく。
そんな、―――夜。

波の音に混じって、幽かな楽器の音色が聞こえた。
ジュリアンは、そっとベッドを抜け出し、開け放したままの、テラスに近付いた。
青い月光が、若き当主の顔を照らす。
「これは・・・フルートか?」
疑問を口にしたのは、自分の聞き知っているどんなクラシックの名曲の、どの奏者よりも、澄んだ美しい響きを携えていたからだ。楽器であるのかも、明確ではなくなる程の、透明感と深さ。

いったい、どこから。
暗い海に瞳を凝らし、首をめぐらせ、振り向いた。
部屋の奥、ドアの付近に、影は落ちていた。
逆光なはずだ。
それなのに、その影は反対の方を向いて、立っている男の顔を隠していた。
「誰?」
不法侵入者を前にしても、ジュリアンは落ち着いた様子だった。
自分に危害を加える者ではないと、判っているのか。
一歩踏み出すと、自分の影と、彼の人の影が僅かに重なり合った。
影は答えた。
「私が何者なのか、貴方は知らない方がいい。」
フルートの印象よりも、やわらかい声音が答えた。
「では、何をしに?」
「貴方を殺しに。」
間髪置かずに、揺ぎ無い決意を秘めた一言が、耳を射た。
「殺す?私を?」
一方、ジュリアンの言葉には、抑揚がなく、それゆえに、驚いているようにも、侮蔑しているようにも受け取れた。

「私には、抗う術もありません。」
残念そうな口調は、返ってポーズのようにしか思えない。
「ですが、説得くらいは出来るかもしれない。月が翳るまでで結構ですから、私とお話をしませんか?」
まるで、お茶にでも誘うような気軽な科白を、誰とも知れぬ者に、ジュリアンは言う。
見れば、海上に浮いた月へと、群雲が寄せていた。
「・・・いいでしょう。」
その返答に、ジュリアンは、本当に嬉しそうに微笑んで、礼を言った。

「もう一度、何者かと尋ねたら、お答え頂けますか?」
ジュリアンの問いに、影は僅かに言い澱み、言葉を選ぶように、ゆっくりと言った。
「私は、これからこの世に起こる、全ての事を、知っている者。」
「それでは、貴方の名を呼べない。」
「名など・・・・。」
吐き捨て、影は黙り込んだ。
「では勝手に呼ばせて貰いますよ・・・セイレーン。」
「なぜ、その名を?!!」
明らかに狼狽した青年は、影を落とした。月光に晒された彼は、ヒトの顔をしていた。
「海の誘惑者は、その名を冠しているものでしょう。」
「貴方は自分が何者なのか、知っているのですか?!!」
ジュリアンは、考える仕草をした。
「私は、何者でもない。私は私です。違いますか?セイレーン。」
名を呼ばれると、彼は複雑な表情を見せた。嬉しいのか、せつないのか。やがて、痛みを受け入れるように瞼を伏せ、再び影を纏った。

「先ほど、この世に起きる全てを知っていると、言っていましたよね。それは、私の死を含めて?」
言いながら、ジュリアンは、テラスの方を、ちらりと見た。雲が、月に迫っている。
「いいえ。貴方の死後は、その結果によって見える。」
「遠い先までは見えないなんて、曖昧過ぎるな。」
「この世界は常に動いている。不安定なのです。」
「なぜ私は殺されなければならないのですか?」
「この世界の、平和のために。」
ふぅん、と興味無さそうに、ジュリアンが笑う。
「私の死によって覆される未来など、きっとたいしたものではない。一層酷いものだったら、貴方に責任が負えるのでしょうか?私が命を落とす甲斐もない。私は無駄死にだと思いますが。」
この自信はどこから来るのか。
だが、セイレーンは首を振った。
「貴方がこのまま生きて、この世界に与える影響は、強大過ぎる。貴方の死が裏目に出たなら、私の命も差し出しましょう。」
「貴方の命?それは、呈のいい逃げでしかない。このまま。つまり。このままでなければ、いいのですね?でも、だいたい・・・ありえるのかな?このままなんて。貴方も言っていたではないですか。この世は不安定だと。」
ジュリアンは歌うように、問うた。
「ねぇ、セイレーン。貴方は私の傍に居て、私を変えようとは、思わないのですか?」
セイレーンは、答えなかった。

その時、月光は雲に飲まれ、辺りは闇に落ちた。
「時間切れです。」
闇の中で、鈍く金色が閃いた。妙なる音が響く。
秀麗で、荘厳で静謐で、そして甘美なる、死の音色。
―――しかし。
「殺さないのですか?」
フルートの音は、いつしか止んでいた。
「知りたくなりました。貴方の居られる未来を。」
答える声はもうどこか遠く、部屋の中からではなかった。
目の前にあったはずの、影も無く。
月の光を映した青海波だけが、どこまでも響き渡る。
「セイレーン、セイレーン。貴方が私を、誘惑したのです。」
その言葉は、彼の人に届いたのか。分からぬままに。
「この胸を騒がすのは、白き波ばかりではないらしい。」
ジュリアンはそっと呟いた。



=END=

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□都合のイイ、作者のいい訳;□

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