+ + + エスメラルダ誕 + + +

+ + 野性の薔薇 + +

―――優しい色をした薔薇の花の、その名前を知った時、既にキミは土の中だった。

「頼む、エスメラルダ・・・俺を恨む言葉でもいい。頼む。何か、言ってくれ。」
俺は粗末な十字架に縋って、ただただ泣き続けた。
エスメラルダを失う事によって、俺の心の均衡は完全に崩れていた。
「兄さん!兄さん、僕の声を聞いて!」
涙を溜めて必死で叫ぶ弟の顔は、彼女の顔だ。不思議だった。彼女をはじめて見た時は、彼女を弟だと思ったのに。
また、この手で同じ顔を殺すのかと、俺は僅かに憂鬱になったが、そんな感傷すらも、すぐに稀薄になった。それほどまでに、俺の手を染めた彼女の血は、尊かったのだ。他のどんな血も、もはやそれ以下に過ぎなかった。
結局。この手を弟の血で染める事無く、後に、サガの乱と呼ばれる十二宮での闘いは終り。俺の杞憂も、徒労に終った。
だが、彼女の未来は、彼女は、決して戻ってはこない。
そして俺は、彼女の誕生日に、墓に行く事にした。彼女の命日に行くには、俺の罪は深すぎた。
花も持たずに行こうとした俺に、弟が、薔薇の花束をよこした。
「お墓に薔薇なんて、どうかと思うけど・・・これね、エスメラルダさんと、同じ名前の品種なんだよ。」
可愛らしいピンクの花弁から立ち昇る、甘い薔薇の香りに包まれて、俺は花束を潰さぬよう、慣れない手つきで抱いていた。

「一輝?!」
兄さんを探し、リビングにやって来た氷河に、ソファでぼんやりしていた僕は、その不在を伝えた。
「あぁ・・・そうか。そうだったな。この時期は、いつも・・・?!瞬、おい!瞬、泣くな。」
「違うんだ。今、泣いているのは、僕じゃないんだ。」
僕に向かって伸ばされた、氷河の腕を掴み、僕は訴えたが、瞳から溢れる涙は止まらず、氷河はちぐはぐな僕の言動に、怪訝な顔をしながらも、僕の頭をそっと撫でてくれた。
いつか、僕が教えた彼女と同じ名のピンクの薔薇を、生きていれば重ねた歳の数だけ持って、彼女の誕生日に、デスクイーン島に兄さんは行く。
そしてきっと今頃、彼女のために、兄さんの涙は流されているに違いないのだ。そう思うと、せつなかった。
そう。兄さんは、いつも泣きに行くのだ。それはもう、この世のものではない、彼女だけに見せる姿だった。声もあげず、落涙する兄さんの姿は、僕には痛々しすぎて、僕は一度だけ兄さんと共に彼女の墓に跪いたが、それきり、もうそこを訪れてはいない。
過去を思い出にしたり、ましてや忘却など決して出来ぬ、気の強い兄さんの、記憶の中から、何度でも呼び起こされる、たくさんの彼女の残像。いや、修行に明け暮れたであろう、地獄の島での、彼女との思い出など、本当はごく少ないのかもしれない。
小麦粉と引き換えに売られ、非業の最期を遂げた少女。
僕は、兄さんが僕の顔を見る度に、ほんの少し哀しそうな表情をするのを、知っている。そうして、時には、あまり僕の顔を見ようとしない事も。
彼女の顔を僕は知らない。けれども、兄さんにとって、この顔はもはや、彼女のものなのだろう。兄さんの心を抱き締めて、彼女は逝った事になる。還して欲しいなどと、僕は言わない。でも、いつか、僕の顔を見る兄さんの目が、幸福に満ちるものになる事を、僕は願ってやまない。

気付くと、少し離れた処に、人の気配を感じた。
「今のお前なら、すぐにでも殺せそうだ。」
義弟は、冷ややかに言った。
多分、そうだろう。いつから居たのか、その視線に、俺は気付く事もなく、墓の周囲の土を掘り返していたのだから。まぁ、別に、こいつに殺されるのは、悪くない。そう思いながら、俺は黙って、額に浮いた汗を拭いた。
「もう、いいか?」
敢えて手を出す事をせず、氷河は見ていたのだろう。感情をあまり見せない氷河の声は、城戸邸のテラスで聞くのと、なんら変わりはなく、俺は少しほっとした。
「帰るぞ、一輝。・・・瞬が、待っている。紫龍も、星矢も。」
俺は、わざとらしく指折り数える。
「おい、足りないだろう?」
「は?」
「お前は、どうなんだ。お前は。」
「俺は待ってなんかいない。・・・だから、迎えに来てやった。」
半歩先を歩きながら、珍しく氷河が笑った。

今年、俺は花束ではなく、花の咲いた苗を持って来ていた。
それを植えて、もう、ここには来ないと彼女に告げた―――。
この地獄の島では、何の手入れもされなければ、可憐な花は枯れてしまうかもしれない。けれども。野に還り、増え続け、咲き続けると、俺は勝手に信じているのだ。
氷河に肩を並べながら、一度だけ、花に埋もれた十字架を振り向いた。

“キミの声が聞こえる。エスメラルダ。その、愛らしい花のような、笑顔と共に。”
永遠に、俺の中に。



=END=

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□都合のイイ、作者のいい訳;□





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