+ + + 祝 v 乙女誕 + + +


+ + Birthday Kiss + +

今日は、僕の誕生日だ。
城戸邸では、沙織さんがケーキを作ってくれている。
食欲をそそる甘いオレンジの香りが、ふんわりと邸内を満たしている。
なんでも、ムウに教わったんだって。
ムウってあたりが、いかにもだよね。
実際はどうだったのか知らないけれど、沙織さんが一生懸命、メモを取っている姿を想像して、僕は、女の子らしくて可愛いなと思った。

ネクタイを探していると、コンコンと小さなノックが聞こえた。
やだなぁ、兄さんたら、こんな時ばっかりノックなんかしちゃって!
しかし、開いたドアには、意外な人物が立っていた。
「瞬、仕度は出来て?」
「えっ?沙織さんっ?!」
彼女が、直接呼びに来たので、僕はびっくりして戸口を見た。
所在無さげに佇んでいる彼女に、漸く“どうぞ”という簡単な言葉を思い出した。
ついでに目の端に、探し物を発見し、手に取る。
沙織さんは、ほっとしたように部屋へ入って来た。
「ねぇ、瞬、・・・あの・・・・。」
いつもハキハキしている沙織さんにしては、珍しく言いよどんでいる。
沈黙を恐れるように、僕の手は勝手にネクタイを締めていく。
僕は彼女の言葉を待った。
「・・・瞬、ハーデスの事なんだけれど・・・・その、呼べないかしら。」
「え?!・・・ハーデスを、って・・・・。」
答えに窮する僕を見て、
「いいえ、あのっ、復活させるのではなくってよ!それでは困るもの。」
と沙織さんが慌てて苦笑したので、僕も笑った。
「でも私ね、彼にも・・・お祝いを伝えたかったの。だって、お誕生日ですもの。」
彼女は、にっこりと微笑んだ。
それで僕は、なんとなく分かった。
沙織さんは決して、ハーデスが嫌いなわけじゃないんだって。
なんだか、ちょっと嬉しかった。

“ハーデスは、この世の全てを、死の国に変えてしまおうとしていたけれど、それは多分、愛を知らなくて、そしてそれが哀しかったからなんじゃないかな。きっと誰もハーデスに、愛を与えてくれなかったんだよね。だって、ハーデスに憑かれていた時の僕の心は、まるで鉛みたいな重さの、真っ黒い哀しみに、すっぽり覆われてしまっていたんだもの。”
僕はそんなふうに、心の中でいろいろ考えていたのだけれど、沙織さんの笑顔を見て、言葉にするのをやめた。
彼女はとても神々しく、そして美しい微笑をうかべていた。
そして、そのまま僕に近付くと、
「おめでとう。」
と囁いてキスをくれた。
そっと唇が触れただけの、優しいキス。
それでも、はにかんだ彼女は、頬を染めてくるんと踵を返した。
「ありがとう女神。」
口を突いて出た言葉に、僕は驚愕した。
僕は彼女を女神とは呼ばない。
今のは・・・僕じゃない。
彼女はもう一度振り向いて、女神の顔で笑った。

“ねぇ、ハーデス。貴方は愛を知らないって言うけど、でも、これから知る事だって、出来るんじゃないかな。それに僕は、とってもスゴイ事を知ってるよ。女神の愛は貴方にも、ちゃんと届いているって事。やっぱり愛って偉大だよね!そうでしょう?”
「ネクタイ・・・曲がってるわよ。早く直していらっしゃい!瞬!」
廊下に消える瞬間、沙織さんが言った。
鏡に向かってネクタイを直し、僕はそこに映った人物に、唇を寄せた。
「僕からも、おめでとう。ハーデス。」



=END=

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□都合のイイ、作者のいい訳;□

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